①ビール【なぜバーテンダーは美味しいビールを注げるのか】

仕事・バー・カクテル

バーで働きたいと思ふとき、シェイクしてる姿がカッコいいからとか、なんだかモテさうだからとか、総じて“なんとなくカッコよくて、モテさうだから”といふ理由のひとが多いのかもしれない。

まず理由については“間違ってはゐない”と言っておく。バーテンダーは“カッコいい”し“モテる”何故ならバーテンダーは“カッコよく【してゐなければならない】し、モテる【やうに見せなければならない】”からだ。

カッコよくないバーテンダーはバーテンダーとは言へないし、カッコよくないバーテンダーは当然の如くモテないであらう。

だから、理由は間違ってはゐない。でも、そのやうな理由でバーテンダーの扉を叩く人たちは結構な確率で早い段階で辞めていく。何故だらうか?

これも答へは明確で“見た目よりも仕事が地味である”からである。思ってゐた煌びやかな世界観とは裏腹に仕事は至ってシンプルかつ単調であることが多い。

最初からシェイクのカクテルを作ることは店の教育スタイルにも依るであらうが、ほとんどの店の場合は“ない”と言ってよい。新人はただひたすらに仕事を“見ること”と“洗ひ物をすること”をやらされるのがデフォであらう。

さて、ここで道は二手に分かれる。

このまま洗ひ物をひたすら続けながら先輩たちのカクテルづくりを見続けるのか、単調な仕事に飽きてモチベーションも下がって辞めるのか。上述の理由で入店してきた人間はだいたい8割方、1ヶ月以内に、後者の理由でお店を去って行くであらう。

翻って、残り2割の奇特な?人間は?といふと…“目の前の与へられた仕事を忠実にこなし”ただただ先輩の作るカクテルの“作られていく過程に注視する”単調な中での“ストーリー性”に気付き、地味な作業のクォンティティとクオリティにこそ輝ける技術と知識が眠ってゐることを知ることができるポジティブな人間。

その単調で地味な仕事の中で唯一、最初の日に技術的に我々が教へることは「ビールの注ぎ方」だけである。

ビールの注ぎ方ひとつとってみてもここにクオリティの差がでる。況やカクテルをや。

グラスやジョッキはまず綺麗に洗へてゐるだらうか?グラスやジョッキは冷えてゐるだらうか?ビアサーバーは毎日適切に洗へてゐるだらうか?今日何杯目のビールだらうか?樽の容量はどのくらいだらうか?ゲストは一杯目だらうか?今から飲むゲストは何軒目だらうか?……

すべての情報を本来は網羅しつつ一杯のビールを注ぐ。一杯のビールを美味しく注ぐことは一杯の美味しいマティーニを作れることと同義である。よって一杯のビールすら美味しく作れないバーテンダーは当然一杯の美味しいマティーニなど作れるはずもない。

入店初日にビールの注ぎ方を学ぶことは、その後のバーテンダーとしての基礎中の基礎の技術を学ぶことである。たがらこそ、ここにおいて理解度や感動具合、どこにでもあるビールに対するどこにでもない一杯の抽出の仕方に興味を持てるかどうかが今後バーテンダーとして生きていけるかどうかの分水嶺である。初日からすでに分水嶺に差し掛かってゐることは始めから理解しておくべき重要なことである。

ビールに対する知識(エールとラガーについてや、国別知識、醸造酒についてなど)は今の世の中ネットの海から自分で調べられるであらう。書籍もたくさん出てゐるし、バーテンダーの教科書的な本にもビールの項はあるに違ひない。

しかしながら、そこに書かれてゐることは単なる知識である。もちろん単なる知識はベースとして大事である。大事であるが十分ではない。その上に技術と物語性を添へたとき初めてビールといふものの本当の姿を目の当たりにする。

グラスの洗ひ方と拭き方を学び、ビールの注ぎ方を初日に学ぶことは、バーテンダーになるための初めの一歩ではあるが、重要な一歩であることを理解しよう。その扉の先にはバーテンダーとして生きていけるか否かの分水嶺が待ち受けてゐるのだ。

さぁお気に入りのバーにサーバー生ビールがあるのなら頼んでみよう。サーバーがなければ瓶や缶のビールでもよい。店によってはビールがないかもしれないが、基本カクテルバーには何かしらのビールがあるはずだ(ビアカクテルがあるため)ビール一杯でもその店のスタイルや知識技術力がみえるであらう。

バーテンダーの数だけバーがあるのだから、ビールひとつとってみてもそこにはバーテンダーのフィロソフィーが見え隠れしてゐるのだ。

その他注ぐだけのモノには、ワインや日本酒などあるがそれはまたの機会に。

さぁ美味しいビールを飲みに行かう。¡Salud!

タイトルとURLをコピーしました