【投資】初心者のためのNISA講座『黙ってオルカン積み立てろ』――ただ凡庸なる優秀さ

株・資産運用

「NISAやりたいんだけど、なに買へばいい?」

もしそんなふうに聞かれたら、ぼくは迷はずにかう答へるだらう、

「黙ってオルカン積み立てろ」

少し乱暴に聞こえるかもしれない。

ーーかつて小林秀雄は学生に、

「何を読めばいいですか?」

と聞かれたときに、彼は、ただ一言、

「トルストイを読みたまへ」

と、さう答へた。ーー

なぜトルストイなのか。他にも色々とあるのではないか。だが、そこに余計な注釈は一切ない。問ひの広さに対して、答へはあまりに簡潔で、あまりに断定的だ。

だが、恐らくはそれでよかった。そもそも読む前から迷ってゐる者に必要なのは、幅広い選択肢の一覧、メニューの多さではない。

選ばなくて済むこと、まずはひとつを与へ、手に取らせ、それを最後まで読ませることだ。

投資の相談にも、これと似た構造がある。

もちろん、本当に黙る必要などない。色々な銘柄や幅広く経済を知ることは、この世の中を見る解像度を一段上げる。

だが「何を買ふか」だけを問はれたのなら、答へはひとつでいい。ーートルストイ……それは、

「全世界株式のインデックスファンド。」

ただそれだけである。あまりに普通。SNS映えもしないであらう。つぶやくには凡庸すぎる。誰かに語れる銘柄でもない。明日明後日で2倍になる夢もない。

だからこそ、人は知れば知るほど、その先へ行きたくなる。S&P500か、NASDAQか、日本株か、高配当か――選択肢は調べれば調べるほど増へる。だが、増へた選択肢のそのほとんどは、実のところ、その答へを、より良くは決してしない。

「選ぶ」といふ発想そのものが罠である。

米国か、日本か、新興国か。成長株か、割安株か、高配当か。この手の問ひは、いかにも投資家らしい顔をしてゐる。だが問ひの立て方自体が、既にあるひとつの間違ひをそこに含んでゐる。

未来にどの国が強くなるか。どの企業が世界一になるか。当てられる者などゐない。“当てられると思ってゐる者”がゐるだけだ。

全世界株式は、この問ひそのものを消してしまふ。米国も、日本も、欧州も、新興国も、すべて内包してゐる。どこが勝っても負けても、世界経済が成長する限り、その恩恵はこちら側に流れ込む。

選ばない、といふ選択。これが最もシンプルで美しく、そして強い。

負けないように。

「もっと儲かるもの」は常にある。だからこそ罠である。オルカンが唯一最高の投資か、と問はれれば、答へは“否”、である。ある年だけを切り取れば、数倍になる株は常に存在する。問題は、それを事前に買ひ、しかも当て続けられるか、である。結果を見てからなら、何とでも言へる。

「あのときNVIDIAを買ってゐれば」「あのとき新興国に全振りしてゐれば」――投資の世界には、この「もし」が無限に転がってゐる。だが、それを未来のこととして選び取れる者は、ほとんどゐない。

初心者に必要なのは、最大リターンを狙ふことではない。大きくは間違へにくい方法を選ぶことだ。百点を取りに行って四十点になるより、七十点を確実に取る方が、資産形成といふ長い勝負においては強い。

分散とは、大きく勝つための技術ではない。

“大きく負けないための技術である。”

「日本もいい」「米国だけでいい」――どちらも過信である。日本株は今後強い、と語る声がある。米国一強はもう終はる、と語る声もある。逆に、米国さへ持ってゐればいい、と語る声もある。どちらも、根には同じ過信がある。自分には、この先どの地域が勝つか見えてゐる、といふ過信だ。

全世界株式を選ぶといふことは、その過信を最初から手放すといふことである。日本が伸びれば、その分は既に組み込まれてゐる。米国が伸びても同じだ。どちらに賭けるかを、自分で背負ふ必要がない。これは臆病さではない。むしろ、自分の予測能力を正しく低く見積もる、といふ一種の知性である。

高配当も、個別株も、否定はしない。ただし順番がある高配当株は面白い。個別株はもっと面白い。企業を調べ、仮説を立て、賭けに出る――それは投資の醍醐味の一つだ。

だが、それは全世界株式の代はりにはならない。核となる資産は、まず分散されてゐるべきだ。その上で、余力の一部を面白い方に振る――それがいい。

順番を間違へれば、核のないところに賭けだけを積み重ねることになる。それは資産形成ではなく、ただの博打(ギャンブル)に近づく。

だから、もう一度。

「NISAを始めたいのですが、何を買へばいいですか?」答へは変はらない。

「黙ってオルカン積み立てろ。」だ。

これは思考停止の勧めではない。むしろ逆だ。「どこに賭けるか」といふ、答への出ない問ひに時間を使ふのをやめ、その分の思考を、人生のもっと大切な場所へ回す。案外、これは高度な選択かもしれない。

ただし、

人間といふものは、優秀で退屈な選択だけでは、どうしても満たされないらしい。平穏ほどつまらないものはない。企業を調べれば、未来を想像したくなる。「この会社は十年後、どうなってゐるのだらう」――さう思ひ始めた時点で、その誘惑から逃れられない。それが人間といふものである。

次は、凡庸で平凡なつまらない優秀さから少しだけ外へ出る話をしたい。

個別株といふ、すこしだけ危険で、刺激的な、とても面白いワイルドな世界について。

タイトルとURLをコピーしました